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2024.04.23
普段なにげなく目にしている送電線ですが、樹木やクレーンに接触したり、雷・雪などの影響を受けたりなど、常に事故の脅威にさらされています。
送電線を含めた電力系統を取りまく設備では、実際に年間多くの事故が発生しているのをご存じですか?万一どこかで事故が発生した場合は、その影響を最小限に抑えるために、いち早く検出して事故区間を切り離さなければなりません。この役割を果たすのが保護リレーです。
保護リレーは保護する要素に応じてさまざまな種類がありますが、今回はその役割や原理を分かりやすく解説するため、電力会社で使用されている架空送電線の保護リレーにスポットをあててご紹介します。
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保護リレーは、電圧や電流などの変化を検知して動作する機器のことで、「保護継電器」とも呼ばれています。
巨大かつ複雑なシステムである電力系統は、絶え間なく事故の脅威にさらされています。
そこで、電力系統を守るために活躍するのが保護リレーです。保護リレーは、万一事故が起きた際に電圧や電流などの変化を瞬時に検知して、遮断器に「切」の信号を出し、事故が発生した回路を系統から切り離します。この働きにより、電力系統や系統に接続された機器を保護するのです。
電力系統を流れる電気は非常に高い電圧ですから、電気を切るスイッチ(遮断器)は、高性能かつ高速で遮断できるように設計されています。そして、この遮断器に指令をだす保護リレーは電力系統を維持するために必要不可欠なものであり、確実性、高速性、信頼性が求められるものです。
とはいえ、この保護リレーの動作原理は、意外とシンプルです。
保護リレーには、送電線保護、変圧器保護、母線保護、発電機保護と様々な種類がありますが、今回はその中でも、送電線保護リレーの仕組みについてご紹介します。
送電線の特徴は、長ければ数百㎞というその「長さ」にあります。そのため、送電線用の保護リレーはバラエティに富んだ様々な方式が考え出されましたが、その中から主な3種類の方式について解説します。
皆さんは、中学生のころに習った「オームの法則」を覚えていますか?
電圧(V)= 電流(A) × 電気抵抗(Ω)の式ですね。
これを少し変換すると、電気抵抗Z(Ω)= 電圧V(V)/ 電流I(A)となります。
送電線の電気抵抗Z(交流回路なので、以下インピーダンスといいます)は、距離に比例するため、事故点までのインピーダンスの値(この値を測距インピーダンスといいます)がわかれば事故点までの距離が判明し、その距離により動作を判断するのが、方向距離リレーの原理です。
具体的には、次の図1で解説します。
まず、A変電所から保護すべき送電線のB変電所までのインピーダンスをZ0(Ω)とし、P1の場所で短絡※事故が発生したとします。
A変電所から事故点P1までの測距インピーダンスZ1(Ω)は、計器用変圧器(VT)、計器用変流器(CT)で計測した電圧V1(V)と電流I1(A)からもとめられますので、この値がA変電所からB変電所までのインピーダンスZ0(Ω)より小さければ、A変電所とB変電所の間に事故点があると判断し、A変電所の遮断器を動作させて事故電流を切ります。
図1:方向距離リレーの動作原理
逆に、保護リレーに入ってきた電圧と電流を計算して、測距インピーダンスがZ0より大きい場合は、B変電所より遠い地点の事故と判定されますので、A変電所の遮断器は動作しないで、B変電所の遮断器に任せます。
このように、計器用変圧器(VT)と計器用変流器(CT)から入力された電圧(V)/電流(I)から導き出された測距インピーダンスZ(Ω)と、当該線路区間(保護範囲)のインピーダンスZ0とを比較してその大小により動作を判断するのが、方向距離リレーです。
この動作原理は、中学校で学んだオームの法則(原理の説明につき、機器の誤差その他については無視しています)そのものであり、保護リレーの基本ともいえるものです。
※短絡:電気回路の電位差がある2点間において、抵抗が小さい導体で、電気的に接続される状態のこと。ショートともいいます。
次に、平行2回線送電線の場合を考えてみましょう。
平行2回線送電線とは、1・2号の2回線を同時に使用して送電する方式を言います。
前項の方向距離リレーは事故点までの距離を測ることができる保護方式でしたが、この距離はどうしても誤差を含みます。そのため、B変電所近くの事故で、もし本来の保護範囲をわずかに超えて2号線も事故と判定してしまうと、図2 のように、せっかく送電線が2回線あっても、2回線とも事故判定となり遮断されてしまいます。
図2:わずかに遠くまで測距範囲と判定した場合
反対に、本来の保護範囲よりわずかに短い範囲で事故判定をしてしまうと、送電線で事故が発生しているにもかかわらず、遮断してくれないことになります(図3)。
図3:わずかに測距範囲を短く判定した場合
これらの問題を解決するのが、デジタル電流差動リレーです。
電流差動リレーとは、同じタイミング(位相という)で同じ大きさの電流を足し合わせると合計値が0になる特徴を利用し、そこに差分が出たら事故と判定する方式です。
この方式を実現するためには、A変電所と離れたB変電所で計測する電流を精緻に比較し足し合わせるために、これらの信号をデジタル化して伝送し合う伝送路が必要となります。
わかりやすくするため、1号線のみをクローズアップしてみます。
図4のとおり、デジタル化された信号を足し合わせ合計値が0であれば事故は無いと判定し、図5のとおり差分が出たときには事故と判定する、とてもシンプルな方式です。
図4:平常時のデジタル電流差動リレーの動作状況
図5:事故時のデジタル電流差動リレーの動作状況
同じタイミングで両端の電流を比較するのは、伝送遅延時間が両方向でそろっていること、伝送遅延時間が一定であることなど、意外と厳しい条件が課される方式のため、建設費用が高額となるのがデメリットではありますが、精緻で優れた保護方式です。
デジタル電流差動リレーは、優れた保護方式ですが、伝送路が必要なため、どうしてもコストがかさんでしまいます。そこで、平行2回線送電線を伝送路無しで事故判別する方式として考案されたのが、回線選択リレーです。
事故判別の仕組みとしては、A変電所およびB変電所のそれぞれにおいて、1号線の保護リレーは「1号線電流」-「2号線電流」の値、2号線の保護リレーは「2号線電流」-「1号線電流」の値が入力され、差分が生じたときに動作するという原理です。
まずは、電流に差分が生じない保護対象外の事故(外部事故)が発生した場合の、回線選択リレーの動作状況を見てみましょう。
図6のとおり、保護対象の範囲ではインピーダンスが等しいため、事故電流は均等に分流し、電流の差分が生じないため、保護リレーは動作せず、正しく判定できています。
図6:外部事故時の事故電流の流れと保護リレーの動作状況
次に保護対象内の事故(内部事故)が発生した場合を見てみましょう。
図7のように、1号線に事故があった場合、事故点までの距離が短い方がインピーダンスは小さいので、A変電所の1号線に事故電流が多く流れ、A変電所側の1号線の保護リレーが動作します。一方、B変電所の1号線は2号線からの事故電流が流れ込み、電流の向きが逆になるため、B変電所側の1号線の保護リレーも動作します。
図7:内部事故時の事故電流の流れと保護リレーの動作状況
この一連の保護リレーの動きは一瞬です。非常に短い時間で判定と遮断器の動作を行い、事故電流を切ることができるのです。
しかし、回線選択リレーにも弱点があります。
一つは、相手端の変電所近くで事故があった場合、図8のように2段階の動作となり、事故除去までの時間が長くなることです。この条件が許容できる場合には、使用することができます。
図8:相手端至近で事故が発生した場合の回線選択リレーの2段階動作
もう一つの弱点は、図9のように同一地点の同じ相で事故が起こった場合、動作できないことです。このような事故では、回線選択リレーに事故電流が流れず動作できないので、必ず方向距離リレーなど、他の保護方式と組み合わせて使用する必要があります。
図9:同一地点・同一相での事故の場合
今回は、電力会社で使用されている主な送電線保護リレーの仕組みについてご紹介しました。
保護リレーは技術の進歩によって、より一層早く事故電流を遮断したり、変電所間の信号のやり取りをより素早く行ったりするなど、飛躍的な進化を遂げていますが、その原理は意外にシンプルなものです。中学校で習うオームの法則から計算したり、デジタル波形の相互伝送やCTの接続方法の工夫などにより事故を検出しています。
電力会社だけでなく、工場やビル、商業施設などの高圧・特別高圧受変電設備に設置されている保護リレーは、電力システムを健全に維持し、電気を安定的に送り届ける上で必要不可欠な機器です。
万一の事故に備えて、常に適切に動作するよう、定期的なメンテナンスや設備更新を計画的に行いましょう。
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