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【電気の基本】保護リレーって何をするもの?その役割と仕組みを解説!
2025.08.08
都市部の地中送電線を中心に広く活用されているOFケーブルですが、長年の使用による経年劣化は避けられません。
特に絶縁破壊のリスクは設備管理者にとって重要な課題です。
本記事では、OFケーブルの劣化がなぜ進むのか、そしてそれが引き起こす絶縁破壊の深刻な影響とメカニズムについて詳しく解説します。
注目されている「ICP課電劣化診断」の有効性や、将来的な選択肢であるCVケーブルへの更新についてもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
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OFケーブル(Oil-Filled Cable)は、高圧・特別高圧の電力を送電するために使用される油浸絶縁ケーブルです。導体の周りを油含浸紙で絶縁し、内部に絶縁油を循環させることで高い絶縁性能と熱放散性を実現しています。1930年代から導入が始まり、日本では高度経済成長期に都市部の地下送電網の中核として広く敷設されました。
OFケーブルは適切なメンテナンスにより長期にわたり使用が可能な設備ですが、その特性から、絶縁油漏れによる環境問題や火災のリスク、また経年に伴う絶縁油や絶縁紙の劣化を起因とする絶縁破壊のリスクも、近年顕在化しています。
絶縁破壊は、電力ケーブルや電気設備において、本来電流を遮断・隔離すべき絶縁物がその機能を失う現象です。
絶縁破壊に至ると意図しない箇所に大きな電流が流れてしまい、設備の安全な運用が著しく困難となります。
場合によっては重大な事故につながる危険性があるため、十分な注意が必要です。
ここからは絶縁破壊のメカニズムや、起こりうるリスクを解説します。
絶縁破壊は、単一ではなく複数の要因が時間をかけて作用し、発生します。主な要因となるのは「絶縁材料自体の劣化」です。
長年の使用により熱や電気的ストレスで絶縁物の特性が変化し、本来の絶縁耐力が低下します。
また、ケーブル外部からの「水分や異物の侵入」も発生の要因になりかねません。水分や異物が侵入すると、絶縁抵抗が著しく低下し、漏れ電流が増加します。
さらに、絶縁物内部の微小な欠陥などから生じる「部分放電の発生と進展」も、絶縁破壊の要因の一つです。放電エネルギーが絶縁物を徐々に浸食し、劣化を進行させてしまいます。
これらの要因は、それぞれ単独で、あるいは複合的に作用することで絶縁性能を徐々に低下させ、最終的に絶縁耐力を完全に失わせてしまうのです。
絶縁破壊が発生した場合に高いリスクとなるのが、まず「広範囲・長時間の停電発生」です。社会インフラや経済活動に甚大な支障をきたすおそれがあります。
次に「設備への深刻な損傷と波及事故・火災」も絶縁破壊によって起こりうるリスクの一つです。
絶縁破壊時のアーク放電は高温であり、ケーブル本体や変圧器などの周辺設備を物理的に損傷させます。火災やほかの健全な設備への波及事故を引き起こすことも考えられます。
また、絶縁破壊によって被害が発生すると、復旧作業にかかる時間やコストも甚大です。特に地中設備の場合は、損傷設備の特定、修理、交換に専門技術と多くの時間を要し、結果としてコストも増大するリスクがあります。
OFケーブルは長期間の使用により、避けられない経年劣化が進行します。この主な原因は、ケーブルを構成する材料そのものの特性変化です。
第一に「絶縁紙の劣化」が挙げられます。主成分のセルロースが、運転中の熱や内部の水分、また酸素との化学反応で分解すると、機械的強度が低下し、電気的な絶縁性能も損なわれます。
第二に挙げられるのが「絶縁油の劣化」です。絶縁油も熱や酸化で劣化を起こし、絶縁性能を低下させるスラッジやガスを生成します。
これにより冷却効果が悪化するだけでなく、絶縁紙の劣化も促進されます。
第三に「金属部分の腐食」です。
ケーブルを保護する金属シースが土壌成分や水分などで腐食すると、そこから水分が浸入し、内部の絶縁劣化を急激に加速させる危険性が高まるのです。
第四に「絶縁紙の課電劣化」です。
近年新たに提唱された劣化現象で、経年30~40年という長い時間をかけてOFケーブルの導体等から絶縁油中に溶出した銅化合物が、絶縁油の流動と電界の影響により絶縁油やケーブル材料から溶出した硫黄化合物などと化学反応し、絶縁紙上に硫化銅等の銅化合物として堆積して絶縁性能を低下させます。
実際、2016年に東京都心の大規模停電の起因となった新座洞道火災では、この劣化現象の影響で275kVOFケーブルが絶縁破壊し、火災や停電を引き起こしたことが解明されています。
OFケーブルの経年劣化が進行すると、電力供給の信頼性に重大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、劣化状態を正確に把握し、適切な時期に対策を講じることが不可欠です。
ここからは、従来の診断方法の限界および新しい診断手法の必要性についてご紹介します。
OFケーブルの劣化状態の評価において、従来の診断手法はそれぞれ利点を持つ一方で、明確な技術的限界も抱えています。
例えば「油中ガス分析」は、絶縁油中のガス成分から内部異常の兆候を早期に発見できる方法として有効ではあるものの、近年明らかになった課電劣化現象は捉えきれません。事実、前述の新座洞道火災における絶縁破壊事故では、定期的な「油中ガス分析」を行っていたにもかかわらず、事前に劣化兆候を捉えることができませんでした。
また、「部分放電測定」は、絶縁物内部の微小な放電を検出する有用な手法ですが、外部ノイズの影響を受けやすく、測定の実施条件が限られるという技術的な課題があります。最も確実な判定が可能とされているのは「絶縁破壊試験」ですが、試験対象のケーブルそのものを破壊する必要があるため、稼働中の設備への適用は基本的に不可能です。
上記のような理由から、従来の診断方法で劣化状態を正確に把握するのは難しいと言わざるをえません。
新たに課電劣化現象が確認され、この現象に起因する絶縁破壊事故が発生していることから、課電劣化現象を事前に捉えられる新しい診断技術への期待は高まっています。
特に、OFケーブルは基幹系統の線路が多いため、ケーブルを物理的に破壊することや線路停止を要する診断は現実的ではありません。そのため、定期的に採油できる絶縁油を通して、OFケーブル内で起きている劣化状況を正確に評価できる技術が求められます。
さらに、「予防保全」の観点からは、絶縁破壊という致命的な事故に至る前の、ごく初期の異常の兆候を確実に捉えることが極めて重要です。
劣化の進行状況を早期かつ正確に把握できれば、最適なタイミングで計画的なメンテナンスや更新を行うことが可能となり、突発的な大規模停電等のリスクを大幅に低減できます。電力設備の安定運用と長寿命化のためには、より高精度で信頼性の高い診断技術は今や不可欠なのです。
従来の診断方法では捉えることが困難だった「課電劣化現象」を、採油した絶縁油から評価するために開発された注目すべき技術が、「ICP課電劣化診断」です。
この診断法は、OFケーブル内部の絶縁油を分析することで、ケーブルの劣化状態を非破壊かつ高感度に評価することを可能にします。
ここからは、ICP課電劣化診断の具体的な原理や特徴を解説していきます。
ICP課電劣化診断では、OFケーブルの絶縁油中にごく微量に溶け出している「銅」に着目します。絶縁油中に溶解している「銅元素」濃度を「ICP発光分光分析装置」で測定し、従来の油中ガス分析と合わせて診断する方法です。
ケーブルが長期間課電状態で使用されると、20~30年かけて導体などから銅化合物が絶縁油中に溶出し、油中の銅量は増加します。これらの銅化合物は、油流動と電界の影響により、ケーブルや接続中の電界の強い領域に誘電泳動して凝集します。この凝集した領域で、銅化合物は絶縁油や接続部から溶解した硫黄化合物と化学反応し、硫化銅等の銅化合物として絶縁紙上に堆積していき、絶縁性能を低下させます。
その結果、油中の銅は絶縁紙に堆積していくため、劣化進行に伴い減少する傾向がみられます。つまり、課電劣化が進行すると、油中銅量は最初増加した後、絶縁紙への堆積に伴い減少するため、増加後の減少量が絶縁紙への堆積量(=劣化度)を示すことになります。
また、絶縁紙への銅化合物の堆積量が多くなるほど、化学反応により油中ガス量(=劣化度)も増加します。
このように、課電劣化の進行に伴う油中銅量や油中ガスのトレンド傾向から劣化状態を診断するのがICP課電劣化診断です。
ICP課電劣化診断では、測定された絶縁油中の銅元素濃度、可燃性ガス総量、水素ガス量、絶縁油のtanδ値に基づき、OFケーブルの劣化状態を段階的に評価します。
一般的には以下のようにランク分けされます。
これらのランク判定は、事前に設定された各特性値の具体的な基準値に基づいて客観的に行われるものです。
設備管理者は、この判定結果によりケーブルの劣化状態を把握しやすくなり、保守計画の立案に役立てることができます。
ICP課電劣化診断は、実際の電力設備における運用を通じてその有効性が広く検証され、着実に実績を積み重ねてきている信頼性の高い革新的診断技術です。国内外の多くの電力会社や大規模な工場などで、経年劣化評価や寿命診断、効率的な設備管理計画の策定を支援する有効な診断手法として導入が進んでいます。
この技術が確立された背景には、絶縁材料の劣化メカニズムに関する長年にわたる詳細な研究と、ICP発光分光分析という高度な化学分析技術の精緻な融合があります。多数の実際のケーブルからデータを収集し、厳密な比較検証を重ねることで、絶縁油中に含まれる微量の金属成分とケーブル劣化との相関関係を見出し、それを実用的な診断手法として確立することができました。
この革新的な技術は関連特許も取得しており、学術的にも産業的にもその技術的優位性が実証されています。
ICP課電劣化診断は、OFケーブルの維持管理において多くのメリットをもたらします。
特に従来の油中ガス分析では捉えることが困難だった課電劣化現象を評価できるため、より安全かつ経済的な設備運用が期待できます。
ICP課電劣化診断の最大の特長の一つは、ケーブル本体を傷つけたり、その機能を損ねたりすることなく診断が可能な「非破壊診断」である点です。診断に必要なのは、従来の油中ガス分析と同様に、OFケーブルから少量の絶縁油を採取する作業のみであり、ケーブル本体への物理的な負荷はほぼありません。
これにより、設備の運転を継続したまま絶縁油を採取できる場合もあり、電力供給への影響を最小限に抑えつつ、診断を実施することが可能です。特に長期間の連続運転が求められる設備や、頻繁な運転停止が困難な設備の診断において、このメリットは非常に重要であり、安全かつ安心して適用できる診断手法といえるでしょう。
ICP課電劣化診断は、OFケーブルの劣化の進行度合いを客観的な指標で把握できるため、効果的な「予防保全」への活用が期待できます。
絶縁破壊という致命的な現象が発生する前に、劣化のサインをより早期の段階で捉え、計画的な対策を講じることが可能です。
また、診断結果に基づいてケーブルの健全性を定量的に評価できるため、事後対応に追われる「事後保全」から脱却し、故障を未然に防ぐ「予防保全」、さらには劣化の進行を予測して最適なタイミングでメンテナンスを行う「予知保全」へと、保全戦略を高度化させることができます。
ICP課電劣化診断の導入は、OFケーブルのメンテナンスに関わるトータルコストの低減にも貢献します。
診断は非破壊で実施でき、絶縁油の少量採取と分析だけで済むため、直接的な診断コストを抑えられます。
さらに、劣化状態に応じた適切なメンテナンス判断が可能になるため、必要な箇所に必要なタイミングで対策を施すことができ、設備投資の最適化にもつながります。
OFケーブルの経年劣化が進行し、継続使用が困難と判断された場合、設備の更新は避けられません。
一方で、OFケーブルメーカーの多くが生産から撤退している現状において、OFケーブル本体や付帯設備を新たに調達することが困難になっています。
このような状況下で有力な選択肢となるのが、現在広く採用されている「CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)」への更新です。
CVケーブルは、導体を架橋ポリエチレンという優れた電気的特性と耐熱性を持つ固体絶縁材料で覆い、その外側を保護シースで被覆した構造を持っています。
ここからは、CVケーブルへ変更することの具体的な利点や留意すべき点について、詳しくご紹介します。
OFケーブルからCVケーブルへ変更すると、絶縁油の管理(油圧監視、漏油点検・補修、油処理など)や油槽などの付帯設備の維持管理が一切不要になります。結果として、メンテナンス作業が大幅に簡略化され、運用コストの削減が期待できます。
また、OFケーブルの大きな課題であった、油漏れによる火災リスクや土壌汚染といった環境問題への懸念が解消され、設備の安全性向上と環境負荷低減に貢献します。
加えて、CVケーブルは一般的にOFケーブルより軽量で柔軟性が高いため、ケーブルの敷設工事の効率が向上し、工期短縮や工事費用の削減につながります。
CVケーブルへ更新する際に考慮すべき点として、まず初期投資額の増大が挙げられます。
これはCVケーブル本体や接続材料の費用、専門的な施工費用が必要になるためですが、長期的なコストメリットを考慮した総合的な判断が求められます。
次に、CVケーブルで採用されている固体絶縁の特性に注意が必要です。
製造や施工の過程で生じる微小な欠陥(ボイド)や異物混入、また接続部の施工不良箇所では応力が集中しやすく、部分放電の発生・進展につながるリスクがあります。OFケーブルとは異なる形で、CVケーブルには絶縁破壊のリスクが伴うことを理解しておく必要があります。
さらに、CVケーブルの長期的な信頼性は、ケーブル接続部(ジョイント部や端末部)の施工品質に大きく左右されます。施工には高い技術力と厳格な品質管理が不可欠となる点に、十分な注意が必要です。
今回は、電力ケーブルにおける絶縁破壊のメカニズムとリスク、OFケーブルの経年劣化の原因と診断の課題、そして革新的なICP課電劣化診断の有効性について解説しました。
OFケーブルの経年劣化は避けられませんが、ICP課電劣化診断のような先進技術を活用することで状態を正確に把握し、予防保全につなげることが可能です。また、将来的な設備更新をご検討されるのであれば、CVケーブルへの更新も選択肢に入れてみましょう。
このとき、導入コストや施工品質などの留意点を十分に理解し、総合的な判断を行うことが重要です。電力設備の安定運用と信頼性確保のため、適切な診断と将来を見据えた対策のご検討をお勧めします。
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