PREVIOUS POST
【電気の基本】「特別高圧」の電気設備はどんな特徴があるの?特別高圧設備ならではの工夫って何?
2023.04.21
設備の「見えないところ」の点検、定期的に行っていますか?
外観点検や重点部の機能点検は行っていても、細管やチューブ、ケーブルなど細かな部分に関しては、なかなかコンディションの把握やメンテナンスが行き届かないことも多いのではないでしょうか?
今回は、ビール工場の煮沸釜における細管点検の事例をご紹介いたします。
お客さまのお悩みを解決するために、私たちができることは何か。解決方法を考え続け、実施に至るまでの秘話と、点検の実施内容についてお届けします。
お問い合わせ
本サービスにおけるご相談やご不明な点がございましたら、以下のフォームよりお問い合わせください。
今回の点検のそもそものきっかけは、約5年前にさかのぼります。
ある営業担当者は、展示会にご来訪いただいたビール工場のお客さまから、煮沸釜内の細管点検についてご相談をいただきました。
しかし、当時在籍していた会社ではお客さまのご要望にお応えできる技術がなく、お断りするほかありませんでした。
数年後、営業担当者が当社に移籍すると、熱交換器の点検に用いている技術を応用すれば、ビール工場の細管点検が実現できるのではないかとひらめき、動き出します。
展示会でご相談をいただいたお客さまへご連絡すると、現在も同様のお困りごとを抱えているとのこと。早速、設備の状況を確認させていただくことになりました。
ビールの製造工程において、原料である麦汁は、殺菌や香り・苦みの付与などの目的で数時間の煮沸が行われます。
その際に用いられる煮沸釜には複数の熱交換チューブが挿入されており、そのなかでは、規定量の水分を蒸発させるための熱交換が行われています。いわゆる多管式熱交換器と呼ばれるものです。
今回の点検対象は、この煮沸釜内にある熱交換チューブでした。
煮沸釜自体は1980年代から稼働しており、腐食や摩耗による熱交換チューブの減肉が懸念されていました。そのため、設備に不具合が生じる前に熱交換チューブの管厚を測定し、健全性を診断することが必須要件でした。
しかし、熱交換チューブは内径が約φ50.0㎜と非常に細く、また、通常当社で扱っている横に配置されたチューブと違い、縦に配置されたチューブであるため、同じチューブであっても、従来通りの点検方法はそのまま適用できません。
しかし、当社で以前より実施していた火力発電所における熱交換器の点検方法を工夫すれば点検が可能なのではないかと考え、点検実施に向けて具体的な検討がはじまりました。
点検には、内挿式超音波探傷検査装置(以下、インナーUT装置)を用いることにしました。内部からチューブの減肉値を測定し、腐食状況を確認する装置です。お客さまとの打ち合わせを重ね、測定に使用する水の補給をどうするか?その水を溜めるためにはどうしたらよいか?などを検討していきました。そして、工場内の水道水を長いホースで供給することや、チューブ下部に特殊なゴム栓を製作し、止水する事を決定していったのです。
製品を作り続けるために稼働し続ける設備ですから、点検にさける時間は長くありません。限りある時間の中でどれだけ精確に検査測定ができるのか、本番で想定どおり効率的に進めるために、お客さまのチューブを1本お借りして、社内で試験測定を実施しました。試験測定ではチューブ内径に合わせたセンサーの製作・調整を行い、また止水用ゴム栓も試行錯誤の末、しっかりと止水できるものが出来上がりました。そして、いよいよ本点検がスタートします。
今回の点検に使用したインナーUT装置は、水を充満させた配管の内部にセンサーを挿入し、内部から発せられた超音波の伝播時間を検知して、配管の肉厚を測定する装置です。埋設配管など、外観点検が難しい配管の腐食点検で多く使用され、伝熱管の外面減肉管理の信頼性を向上させるものとして当社でもたびたび使用しています。
[使用測定機器]
名称 | インナーUT装置 |
測定方式 | 超音波パルス反射式(水浸測定) |
測定範囲 | 1.0mm~3.0mm(精度 ±0.1mm) |
測定センサー | 5C20N |
点検は、複数ある熱交換チューブの中から任意の8本を抽出し、実施しました。
測定方法はまず、熱交換器の下部に止水栓を設置し、水を充満させます。次に、インナーUT装置の測定センサーを配管上部より挿入します。最下部まで移動させたのちに、センサーを引き上げながら、熱交換チューブの全長・全周における管厚を測定しました。
今回の測定結果から、チューブの8本中6本は、当初3.0mmあった管厚が残肉値1.1mm以下となっていることが判明しました。つまり、単純計算でチューブ全体の75%が、新設当初の厚みから65%以上も減肉していると言えます。
また、チューブ内面の減肉量は一律0.7mmであったため、摩耗作用により均等に減肉していることがわかりました。一方、外面の減肉量は0.5mmから1.5mmとバラつきがあり、熱交換器全体において局部的な減肉要因が存在していると推定されました。
つまり、今後も使用し続けることで、何らかの減肉要因によって亀裂や穴が発生するリスクがあることがわかる結果となりました。煮沸釜を安全・安心に運用していくために、引き続き熱交換チューブの減肉要因の解明や、減肉箇所のトレンド管理が望まれます。
今回は、既存の点検技術を応用することで、お客さまのお悩みを解消した事例をご紹介しました。
製造現場で稼働する設備は、そこで生まれる製品の品質を維持する以上、常に万全の状態でなければなりません。
何事もなく稼働を続ける設備だけでなく、製品品質に対するお客さまのプライドごと、下支えしているのだということを私たちは忘れてはならないと考えています。
今回点検を実施させていただいたお客さまからは、「熱交換チューブの余寿命を管理していく上で、参考となる貴重なデータ採取ができた」とご好評いただき、今後も継続的に点検を実施していく予定です。
些細な不具合も、大きなリスクにつながる可能性があります。
設備の健全性にご不安をお持ちの方や、診断・点検をご検討中の方はぜひお気軽にご相談ください。
柔軟な発想力で、お客さまのお悩みの解決に向けてお手伝いさせていただきます。
お問い合わせ
本サービスにおけるご相談やご不明な点がございましたら、以下のフォームよりお問い合わせください。
PREVIOUS POST
【電気の基本】「特別高圧」の電気設備はどんな特徴があるの?特別高圧設備ならではの工夫って何?
NEXT POST
【電気の基本】受変電設備の耐用年数は?メンテナンスの重要性と長期稼働のリスクも解説!